哲学MANの挑戦的な日常

意識高い系が自分には合ってる。

マトリックスを見て

映画「マトリックス」世紀末に登場した混沌とする90年代の答えのような作品だと思う。



みんなが引きこもり、傷つくのを恐れ、何もかもが凍っていたあの陰鬱な時代の明確な、しかも感覚的な答えだった。

この世界とこの自分との違和感。
自由を得た代わりに払った安心。
行き詰まった世界で何をどう楽しんだらいいのかわからなかった。
その表現がROCKという破壊であり、消費という安心であり、引きこもるという行動だった。

そして映画の主人公はスーパースターでも超能力者でも金持ちでもない。
あるとすればハッキングスキルとこの世界の真実を見たいという願望だ。

だから主人公ネオ(ニオと発音しているが)は序盤で携帯電話の指示に従えず高層ビルから脱出できず(通常の主人公はできる)あっさり敵に捕まってしまう。



その後それが夢だったかのように場面が展開した後トリニティーたちと車にのりあるところへ向かう。
その道中銃を突きつけられ車を「降りる」か「行く」かの選択を迫られるとあっさり降りようとする。

この二つの行動は主人公らしからぬ、いや、主人公ならしてはいけない選択だ。

僕らは日常からの脱出を夢見るが、結局その選択を出来ないでいる。
サラリーマンを止めて明日から農家になろう、とか、そんな風にはいかない。
まさにネオはそんな僕らと同じ行動をとったのだ。

それが最大の共感と意外性だったんだと思う。


その後最大の重要人物モーフィアスと対面して赤い錠剤か青い錠剤か選ぶように迫られる。



実に三回目の選択だ。
既に二回主人公らしからぬ選択をしたネオはやっと物語に突入する。

でもこれもある意味「自己決断」ではなく「ここまで来たらもうしょうがない。
」「今更引き返せない」というネガティブな思考による選択だったと思う。

目覚めた(誰もが望んだ覚醒をした)あと、そこには窮屈で残酷な現実しかなかった。
機械とのバトル、おいしくないご飯、狭い空間。

あれ?もっと開放感と達成感と幸福感に包まれるんじゃないのか?

という期待はあっさり裏切られる。


序盤でのビル飛び越えテスト、救世主たる主人公はここで実力が出るはずだった。
あっさりと飛び越え、さらに見たことないようなことが出来る。
この期待も裏切られる。
全くジャンプできず、つまり自分の精神を解き放ったりという自己コントロールができない。
そしてこう誰かが言う「はじめは誰だって失敗するさ」

それが救世主だろうと。


そしてストーリーは進む。
予言者に「救世主ではない」といわれ、落胆(モーフィアスの期待に応えられない)と安心(自分が救世主なわけない)がネオを揺さぶる。

でもだからこそエージェントに捕まったモーフィアスを助けに行けるのだ。
大事な物をタンスにしまっておくのではなく、使い切ってしまえる。
救世主ではない自分はもう保護の対象ではないのだから無茶できる。



この考えが彼を解放する。

結果仲間の救出、敵のビルから脱出することが出来る。


その後最大のピンチが訪れる。

映画の最後、エージェントに銃を撃たれ心停止する。
ここで彼は覚醒して(やっと)主人公に、そして救世主になる。



そしてこれは全てマトリックスという仮想現実内での話だ。

僕らはこの映画を見て「そうかこの世界と自分の間にある違和感はこの世界が仮想現実だったからか」と納得する。
デジャブやたまに見る超能力番組、霊やその他摩訶不思議な現象の説明がつくではないか。

映画を見終わった人は心の納得、主人公への共感(主人公が僕らに似ている)、最後の覚醒に酔いしれたことだろう。

僕がまさにそうだった。


その他にも画的なかっこよさ、90年代のROCK、音楽、やり過ぎの演出、ユーモアがこれでもかと詰め込まれている。

個人的にはラストで流れるRAGE AGAINST THE MACHINEがかっこ良すぎる。
マリリンマンソンもかっこ良すぎるのである。


こんなに良く出来た映画は他にないだろうと思ってしまう。
未だにマトリックスを超えるSF映画は出てきていない。


先日久しぶりに見たのだが僕はこの映画に「100点」を与える。

ちなみにリローデットもレボリューションも見たのだが、良くある劣化版「2」「3」だ。




最後に
90年代の誰もがこの覚醒を願っていたと思う。
覚醒といっても「本当(理想)の自分」への強い憧れということだ。
それが今は覚醒への憧れではなくマトリックス(仮想現実)だとわかった上で覚醒せずともどう楽しむか、に変わった気がする。
覚醒できないことを前提に人生をどう楽しむか、だ。
僕はそんな風潮が嫌いだ。
日常を舐めるだけなんて何も楽しくないと思っている。
今でも覚醒を望んでるし、壁は壊したいし、ヒーローになりたい。
この三種混合のガソリンが僕らには必要だ。